てんかん治療と病気への理解

脳 てんかんとは、脳に突発的に電気的な異常が起こり、自分の意志に関係なく意識や記憶の障害や運動感覚の異常、または自律神経障害や精神症状が生じ、繰り返す病気のことです。

突然意識がなくなり、2から5秒後に突然意識を回復する欠伸発作や、全身の筋肉が強い収縮を起こし、体がピクッとする程度のものから倒れ込んでしまうミオクローヌス発作、手が上に挙がり上体が屈曲する点頭てんかんなど、その分類や臨床症状は多岐にわたります。

てんかんは、乳幼児から高齢者まであらゆる年齢のかたが発症する可能性のある病気で、1000人に5~8人の割合で見られます。
よって日本全体の患者数は、60万人から100万人です。
今回は、てんかんという病気の治療法や治療期間、発作を目撃した場合の対処法について理解が深められるようお話します。

てんかんのさまざまな治療法

てんかんの治療は、基本的に薬物療法で行われます。
薬の種類は複数ありますが、発作型と脳波型、によって主治医が選択します。
また、薬の選択時には、年齢と性別も考慮される場合があります。
薬物療法では第一選択薬物を少量から開始し、徐々に量を増やしていくことが一般的です。
一つの薬物を服用していても発作がおさえられないケースでは、他の薬物を一つずつ試し、それでも抑制できない場合には多剤療法となります。


ラミクタールがあれば外出も安心です

薬物治療や筋肉注射をするACTH療法

薬物療法中は、勝手に服薬を中止せず、規則正しく服用することが必要です。ここで注意すべきことは、服用した薬の量と実際に脳に届く薬の量には個人差があるという点です。
そのため、定期的に採血をして、内服薬の血中濃度を調べることになっています。
この血中濃度の測定は、薬の服用量を決めるだけでなく、今後起こりうる副作用の予測や、実際に副作用が起こってしまった場合の対処法を事前に考えるためにも有効です。

薬物療法を受けているかたで薬の服用量に変化があった場合には、どのようなことに気をつけたら良いのか説明をします。
発作の頻度はもちろんのこと、眠気やふらつきの有無、だるさなどの体調の変化を感じた場合には、日付や辛いと感じた時間帯をメモし、主治医に相談しましょう。
周囲の人から見ると眠そう、またはふらついているが、本人に自覚がない時などには本人や保護者に伝え、治療に活かしていくことも検討してください。

また、点頭てんかんには毎日筋肉注射をするACTH療法が用いられることがあります。
ACTH療法は、副腎皮質刺激ホルモンという脳下垂体で生産されるホルモンが点頭てんかんの発作を抑制するという点に着目した治療法です。
ACTH療法の効果は即効性で、2周間以内に発作の大部分または全てを消失させることに希望が持てます。
しかし、3週間連続でこのACTH療法を行っても発作や脳波に改善が見られない時には無効とされています。

食事改善でてんかんを治療?ケトン食療法

次に、ケトン食療法を紹介していきます。
ケトン食とは、高脂肪・低カロリーの食事を言います。
ケトン食療法中は、体内でケトン体、多価不飽和脂肪酸、およびGABAが増えます。
これらの物質が神経細胞の興奮を抑えることで痙攣を起こさないようにしています。

体内でケトン体を作るためには、脂質と糖質の割合が2:1以上でなくてはなりません。
必要に応じて治療用特殊ミルクを併用します。
一般的に、ケトン食療法は点頭てんかんから部分てんかんまで、様々なタイプのかたに有効である可能性が高いとされている治療法です。

しかし、ケトン食療法には難点もあります。
高脂肪食のため、献立が偏りやすく一般の食事と比べると栄養が偏っています。
そのため家族と同じものが食べられず、料理を用意する人にとっても手間がかかりやすいことも事実です。
また、ケトン食療法の導入時には低血糖や嘔吐、下痢などのトラブルを抱えやすいと知られています。
導入後は、治療の性質から高コレステロール血症を合併するケースもあり、いずれにせよ医師の指示のもとで治療を進めることが重要です。

手術で治療するてんかんもある

薬物療法で効果が乏しい難治性てんかんでは、外科治療が行われる場合があります。
手術が選択されるのは、難治性てんかんであり、発作の型や年齢、社会的な背景を考慮して有効である可能性があるケースです。
薬物を十分量、2年程度服用しても発作が抑えられない場合は、日常生活に支障をきたしやすく、開頭手術が検討されます。
ただし、年齢や原因疾患によっては、薬物療法開始から2年を待たずに外科治療にうつることもあります。

一方で、開頭手術が行えないかたもいらっしゃいます。
外科治療でも発作のコントロールが困難だと考えられる場合、あるいは開頭手術後も発作が残ってしまった場合には、迷走神経刺激療法が検討されることもあります。

迷走神経刺激療法は、開頭手術を行わない外科治療法です。
外科治療といっても迷走神経刺激療法は、発作頻度を低減させる補助治療法に分類されます。
日本においては2010年に迷走神経刺激療法の治療装置が保険適応となっています。
現在は開頭手術が奏功する場合を除いた難治性てんかんを有するかたが対象です。

てんかんは完治できる?治療期間はどれくらい?

カレンダー 次にてんかんの治療期間について見ていきましょう。

薬物療法では、上述した通り規則正しい内服と管理が求められます。
しかし、ゴールが全くないわけではありません。
てんかんの原因や重症度、脳の障害の程度によりますが、薬物治療で発作を消失させることが可能です。
薬物療法で発作を完全に消失させられるかたの割合は7~9割であると文献により多少の開きがありますが、いずれにせよ決して少ない数字ではありません。
内服により一定期間発作が抑制された場合には、徐々に時間をかけながら薬の減量をし、最終的には中止できるよう調整されます。

薬物療法とACTH療法の治療の終結

薬物の服用量を徐々に少なくしていくことには、大きな意味があります。
これは薬物を急激に中断すると、離脱症状を引き起こすリスクがあるからです。
この離脱症状では、発作の頻度が高くなり重積状態になることがあります。
重積状態になると普段以上発作が続いたり、断続してその間の意識を失ったりします。
以前では、てんかんの重積状態は30分以上続いた状態とされていましたが、現在では、5~10分以上続いた場合には重積状態として判断され、早期に治療が開始されるようになっています。

薬物療法の終結を考える際には、大人でも子どもでも、発作が消失している期間が重要視されます。
大人の場合は発作が消失している期間が5年以上、子どもの場合は2~3年以上続いていることが必要です。
その上で主治医が服薬を中止しても問題ないと判断した時から、3ヶ月から半年の時間をかけて減薬していきます。
完全に内服していない状態でも発作が起こらなければ、てんかんが治癒したと判断されます。

しかし、これはあくまで一般的な目安です。
てんかんをお持ちのかた一人ひとりの状態に合わせて薬の調整は行われるため、治療期間について不安なことがあれば受診時に主治医へ質問することが大切だと言えます。

では次に、ACTH療法の治療の終結について見ていきます。
ACTH療法を行う際、最初の4週間は入院して治療を受けることになります。
それ以降も治療を続ける場合は通院治療で良いとされており、8週間程度治療を継続するかたもいらっしゃいます。
基本的な治療スケジュールは存在しますが、薬物治療と異なり突然中止をしても不都合な症状が出ないため、同じ日に治療開始しても、治療が終結する日にずれが生じるケースは珍しくありません。

入院する場合の期間

また、難治性てんかんで行われる開頭手術では、術式にもよりますが約4~5週間の入院期間が必要です。
術後の経過次第では、リハビリ期間が設けられることもあります。
一方、近年の入院治療では、在院日数を短縮させる傾向にあります。
よって、実際の入院期間は前後する可能性がおおいにあります。

そして、難治性てんかんをお持ちで迷走神経刺激療法を受ける方の入院期間についてお話します。
迷走神経刺激療法では、全身麻酔下でパルスジェネレータとリードを体内に埋め込みます。
手術自体は約2~3時間で終了し、1~2周間で退院となります。
通常パルスジェネレータからの電気刺激は、術後2週間経過してから開始されます。
電気刺激は最初のうち、弱い値から始められ、発作の状況に応じて徐々に強い刺激に調整されます。
このため、状況に応じた適度な刺激条件であるかを確認するための定期受診が必要です。
なお、電気刺激の調節は外来で行えるため、入院の必要はありません。

迷走神経刺激療法で使用されるパルスジェネレータは、電池で動いています。
この電池の寿命は約6年です。
電池の寿命がきた時には、装置を交換するための再手術が必要になります。

以上の通り、てんかんの治療には長い期間がかかります。
ですが、薬物療法や手術によっててんかんが治癒する例や、迷走神経刺激療法によって症状がコントロールできる例も数多くあることがおわかりいただけたと思います。

てんかん発作を起こしている人がいた時の正しい対処

てんかん発作を起こしている人 てんかん発作の多くは、数秒から数分間でおさまるものです。
突然の意識消失や痙攣している人を目撃した時、気が動転してしまうこともあるとは思いますが、正しい対処法を知ることで落ち着いて行動できるように知識をつけておきましょう。

てんかんの発作が起こったら、まず安全を第一にした処置が必要です。
倒れている場所によっては、交通事故などの二次災害を引き起こしてしまう危険性があるため、まずはてんかん発作をおこしている人が危険な場所にいないか判断します。
階段や道路など危険な場所であれば、安全な場所に本人を移動させましょう。

その上で、痙攣が体の一部にとどまり全身に広がっていない場合には、本人の様子をそのまま観察して下さい。
この時、体を横にすると気道分泌物や嘔吐物での窒息が予防できます。
また、衣服の胸元やベルトを外すことで、楽に呼吸ができるようにします。
本人が身につけている眼鏡やヘアピン、入れ歯などで怪我をしないよう、発作を発見した時には無理がない範囲で外しましょう

てんかんは発作を起こしている本人の意識が消失しているため、発作時の状況を主治医や救急隊に伝えるには周囲の観察が不可欠です。
そこで、具体的な観察ポイントを述べていきます。

発作を起こす前に変わった症状がなかったか、発作が出ていたのは全身か一部分か、頭の位置や手足の形、唇や爪の色です。
また、呼吸が止まっていたかどうかも大切な情報です。
そして時計があれば、発作が起きた時間とその持続時間をメモすると受診時に役立ちます。
一気に観察ポイントをお話しましたが、最近では携帯電話で発作が起こっている本人の動画を撮影し、救急隊や主治医に見せるかたも増えてきています。

てんかん発作を起こしている人にしてはいけないこと

では反対に、発作を起こしている人にやってはいけないことを紹介します。
例えば、大声での呼びかけや、本人の身体を揺さぶる行為、叩く、抱きしめるといったことです。
発作を発見した人の気が動転していた場合、大声で本人を呼びながら体を揺さぶって目を醒ますように促したくなる気持ちになるかもしれませんが、ぐっとこらえて冷静に観察することが必要です。

そして、舌を噛まないようにとタオルやスプーンを入れることもしないようにしましょう。
無理に硬いものを口の中に入れると歯を折ってしまったり、発見した人が噛まれて手を怪我してしまう可能性があります。

しかし、このように悠長に観察していられない場合もあります。
痙攣発作が長引いたり、発作と次の発作の間に意識が戻らないケースが該当します。
これらの徴候が見られた時には、すぐに救急隊を呼び、医療機関へ搬送する必要があります。
また、発作時に転倒して頭を打っている場合には、ヘルメットなどの保護帽を着用していても怪我をしていることがあるため早めの受診が必要です。

さらに、入浴中やプールでてんかん発作を起こしてしまうケースもあります。
その際には早急に水から顔を離すように対処します。
浴槽での発作では、顔が水面から挙げられないこともあります。
そういった時には、浴槽の栓を抜いて溺れないようにします。
一方、プールでは無理に発作中に本人を引き上げようとせず、水中で体を支えて溺れないように配慮します。
すでに溺れていたり、水を大量に飲んでいたりする際には、すぐに救急隊を呼びましょう。

てんかんは繰り返し発作を起こす病気です。
身近な人の中にてんかんをお持ちの方がいる場合には、周囲の人に理解してもらい、いざという時に必要な対処がされるようにしておくことが重要であると言えます。
例えば、学童が学校にいる間など、保護者の目が常に行き届くわけではありません。
担任の先生や養護教諭に病気のことを伝えることで、万一の時の救助体制を整えておくことが必要です。
また、普段の生活の中でも本人が疲れすぎないような配慮をし、安全な環境を整えておくことも大切です。